(前列)吉峯みゆきさん(内視鏡センター主任・内視鏡技師)
(後列左から)幸加代子さん(技師助手)、上山恵里さん(技師助手)、山本味穂さん(技師助手)、黒川恵さん(内視鏡技師)
内視鏡専門クリニックだからこそ、履歴管理は必要だった
---内視鏡の洗浄・消毒に関する履歴管理をはじめた時期と契機についてお聞かせください。
吉峯 履歴管理は、2003年5月からおこなっています。当時、内視鏡検査の所見ファイリングソフトを更新することになり、ソフトメーカーに洗浄・消毒などに関する履歴管理も記録できるようにお願いしました。
---早くから履歴管理が必要だと思っていたわけですね。
吉峯 そうです。ソフトメーカーに依頼する前から、海外では内視鏡の洗浄・消毒を履歴管理していることを聞いていましたので、医療事故が起きた場合に備えるリスクマネジメントになると思っていました。当院では高水準消毒薬を使い、日本消化器内視鏡技師会のガイドラインに沿って内視鏡の洗浄・消毒をおこなっていますが、もし内視鏡介在による感染が疑われて訴訟問題になった時に、記録として残っていないと証明できないと思いました。当院は、内視鏡専門のクリニックですから、そんなことがあってはならない、という強い信念から履歴管理をおこなう必要性を感じていました。
検査終了後に「記録用紙」をもとにパソコンに入力
---どのような履歴管理ソフトを作られたのですか?
吉峯 当時は、依頼したソフトメーカーを含めても履歴管理ソフトはありませんでしたので、当方から細部にわたって要望を出してオリジナルのソフトを作成してもらいました。作成したソフトは、パソコンにデータを日々入力していくことで様々な記録を保存するものです。切り口としては、スコープの使用、洗浄器の使用、薬液交換、機器の修理といった4つの視点で記録を閲覧することができます。
メニューを開くと、それぞれに記入する項目が示される方式になっていますが、統計活用する必要があると思われる項目には集計機能を付けている点が特徴です。スコープの使用傾向や修理金額などを把握することができ、スコープをバランスよく使ったり、点検の計画を立てることなどに役立てています。
---日常的に管理している項目を教えてください。
吉峯 基本項目として、[検査日時][患者ID][使用スコープ機種]があり、加えて洗浄・消毒に関する項目として[洗浄日][洗浄時刻][洗浄者][洗浄器番号][薬液交換日][薬液交換後の使用回数][薬液交換後の経過日数][テストストリップによる濃度チェック][漏水チェック][洗浄時のコメント]を入力しています。
---データ入力はいつ、どのようにおこなうのですか? 図1.記録用紙
吉峯 検査終了時に患者名などを記入した「記録用紙」(図1参照)を、スコープとともに洗浄室へ持って行き、そこで洗浄・消毒した記録を手書きします。一日の検査が終了後に記入済みの「記録用紙」を洗浄室から回収して、パソコンに入力する手順です。その日の検査数だけの「記録用紙」の枚数が揃っていることを確認して、当番のスタッフが1枚ずつ入力しています。なお、薬液交換後の洗浄消毒器使用回数は、パソコンでも自動的に更新して示され、「記録用紙」に手書きで記入した回数と照合することができます。
---薬液交換の目安として使用回数はどれくらいに設定していますか?
吉峯 高水準消毒薬としてフタラール製剤を使っていますが、洗浄消毒器毎に春夏秋冬の4回、ジョンソンさんに濃度測定試験(HPLC=高速液体クロマトグラフ法) を依頼して測定した結果、いずれの季節も40回以上濃度を維持していましたが、安全域を見込んで38回に設定しています。このようにフタラール製剤の濃度が安定していることを確認していますが、履歴管理には薬液の濃度管理も不可欠であり、テストストリップでの濃度チェックも並行しておこなっています。
検査前に「洗浄・消毒証明書」を患者さんへ提示
---濃度管理を厳格に行っているようですが、きっかけがあったのですか?
吉峯 2006 年の技師会でフタラール製剤の濃度測定について発表したことがあるのですが、その当時はまだフタラール製剤の特性である安定性にのみ注目していました。しかし、消毒薬の安定性を確認するだけでなく、以前から当院で行ってきた履歴管理に消毒薬の濃度管理も加えていくことの必要性を感じ始めたのがより厳格に濃度管理を行おうとしたきっかけです。
---5年以上、履歴管理を続けてきた感想をお聞かせください。
吉峯 当院では内視鏡介在感染事故や訴訟問題などは起きていませんが、履歴管理をリスクマネジメント以外に有効に使えないだろうかと、プラス思考で考えてみた結果、患者さんが安心して検査を受けていただくツールとして応用することを思いつきました。それが、洗浄・消毒した担当者名を書いて”責任をもって洗浄・消毒いたしました”と患者さんに示す「洗浄・消毒証明書」(図2参照)です。それを検査ベッドに置いておき、患者さんが検査を受けるときに「ちゃんと洗浄・消毒していますから、安心してください。」と声掛けしながらお見せします。患者さんの不安感を取り除き、さらには当院のイメージアップに繋がればよいと思って、昨年夏にはじめました。検査後には先生から説明後、検査報告書と一緒に封筒に入れて患者さんにお渡ししています。
---「洗浄・消毒証明書」を発行した効果はいかがですか?
吉峯 検査前に患者さんとコミュニケーションをはかる良いツールになっていると思います。加えて、スタッフが履歴管理の重要性を一層認識でき、洗浄・消毒に関するプロとしての意識が向上したことを感じます。内視鏡の洗浄・消毒は患者さんが見えないところでおこなうのですが、それを患者さんに明らかにすることにより、洗浄・消毒スタッフの責任能力も問われることに意義があると思っています。
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